ピレーネを越えて

標高200mにあるサンジャンピエドポーの村を夜明け前に出発した。
村を出るとすぐに登りとなる。
高度が上がるとともに、夜明けを迎え、美しい農村風景が広がる。
オリソンOrissonという宿兼喫茶店が標高750m辺りにあり、これが最後の店で、この後はロンセスバジェスの修道院までは何もない。ここで朝食にカボチャのスープとトルティージャ(フランスパンのサンドイッチ)を買って食べる。ピレーネの山並みがきれいに見えるが、あいにく逆光で写真では美しさが伝わらない。

そして、このオリソンを過ぎた辺りから風に悩まされる。
岩と草だけの不毛の丘を登っていくのだが、猛烈な風だ。感覚では風速40m以上ある。立っているのも苦しい。巡礼者は皆、ヨロヨロしている。何もない丘で風が吹き続けるので休憩することも出来ない。当然写真を撮ることもできない。どんどん体温が奪われていく。気温は10℃くらいなのに手袋なしでは厳しい。そして、それはPic de Lezar Atheka(フランス語なので読み方が分からない。アセカと読むのだろうか)の山を巻き込む道になって山の遮蔽によって終わりを告げる。ここで高度は1200m位だろうか。
しかし、逆にここからは残雪があり、雪の上を歩くことになる。途中でフランスとスペインの国境があるが、鉄の溝蓋みたいなもので、あまり実感はわかない。雪と泥の道を繰り返しながら、Col de Lepoeder(レポエデル)という山の山頂付近に至る。ここでの高度は今日の旅程の最高点である1450mである。

ここからナポレオンが通ったイベニェタ峠を下ってロンセスバジェスの修道院に行くように巡礼事務所から指示を受けていた。直接行く道もあるが雪が深く、急な下り坂なので転倒の危険があるとのこと。
しかし、どこで間違ったか、この道へ入ってしまった。多分巡礼者の後をついていったらこうなったのだろう。一度転倒するも大事に至らず、無事ロンセスバジェスの修道院へ到着した。疲労困憊である。映画でも主人公の息子さんがこのピレーネで亡くなった設定になっていたが、さもありなんである。急激な天候変化や怪我があれば映画のようになる。遍路道というより登山である。ちなみに標高差1250mのこのコースは、百名山八ヶ岳の標高差1200mと同じレベル。